週末は雑木林に囲まれて

八ケ岳に魅せられて、週末は八ヶ岳南麓で暮らしています。東京と行ったり来たりの暮らしの中で感じたことや考えたことを綴ります。

鴨せいろ発祥の蕎麦屋で長寿の意味を考えてしまった@「銀座 長寿庵」

昨晩は

会社の顧問Nさんを

Hさん、Cさん、僕の3人で囲んでの

忘年会でした。

 

場所は毎年恒例の

銀座(築地)の蕎麦の名店、「長寿庵」です。

 

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昔からここにあって

何度足を運んだことでしょう。

会社員時代の懐かしい記憶がここにはあります。

 

7時にここで待ち合わせ、ということでしたので、

7時少し前に3人で到着し、

顧問を待っていたら、

10分経っても来ません。

 

おかしいなあ・・・

と思っていたら、

一番年少で顧問を公私ともに面倒見ている

Cさんの携帯が鳴りました。

 

「おまえ、いったいどこにいるんだ!」

と怒っている声が聞こえます。

「いや、もう長寿庵でお待ちしていますが・・・」

とCさん。

すると、

「あれ、長寿庵だっけ?」

と電話口から顧問の声が。

 

どうやら本人、自分が予約したにもかかわらず

いつもの喫茶店に行っていたらしいです。

 

「迎えに行きます」

そう言って飛び出したCさん、

彼に手を貸してもらい

杖を突いてヨチヨチとお店に顧問が入ってきたときは

7:30になっていました。

 

ボサボサの頭、

伸び放題の髭、

パジャマを重ね着し

コートを羽織っただけの姿、

いつ転んでもおかしくないような歩き方。

 

顧問はこの春ぐらいから

糖尿病がひどく

みるみる年を老いていきました。

家から10分もない

この店にくるのも

無理じゃないかな・・・と思ったぐらいです。

 

でも本人がどうしても4人で

長寿庵でやりたい、というので

ここになりました。

 

1年前の忘年会、

ここで4人で誰が勘定を払うか

あみだくじをやって盛り上がりました。

そのときは、

バリっとしたスーツにを着て

胸ポケットには赤いチーフを入れて

エルメスのネクタイと、

エルメスのコートを

恰幅のいい体にまとい、

どこぞの大物か?

と思わせるようなドスの効いた声と態度で

蕎麦屋に緊張感を与えたぐらいの人ですが

その片鱗すらありません。

 

数日前に転んで

右肩の骨にヒビが入ったらしく、

たのんだつまみや料理は

全部顧問の周りに集中させました。

それをふるえる箸でつまんでいました。

 

いつもの毒舌で

僕らを笑わそうとするのですが

その声に元気がありません。

記憶も結構あいまいになっています。

 

糖尿病はかなりつらいらしく

排泄のコントロールはできないし

おむつをしていても

もらしてしまう。

ゆえにお店に迷惑をかけることもしばしば。

外に出るのが億劫で

誰にも会いたい気持ちになれず

大好きな競馬にもいく気力もなく、

家でも悶々としているだけ・・・。

身内とはほぼ縁が切れているので

Cさんが毎日様子を見に行っています。

 

来年2月に住んでいるマンションを引っ越し、

頼れるヘルパーさんが近くにいる施設に

引っ越すことになっているのですが、

時折ぼそっと、

「私はもうダメかもしらん、

オリンピックが見たかったけど、

今は早くぽっくり逝きたいね」

と漏らします。

 

そんなことないですよ、というと軽薄すぎるし、

頑張りましょうよ、というのも他人事のよう。

 

なんと返事をしていいかわかりません。

 

こういうときは酒をあおって

昔の思い出話に切り替えるしかありません。

 

「そういえばいまは亡きTさんはすごい詐欺師でしたね」

「あの時の大騒ぎの発端はC、お前だろ?」

「社長が怒って蹴り飛ばそうとしたら

空振りして転んだときは笑うに笑えなかったよな」

「そういえばお前の愛人、元気か」

次から次へと出てくる

今の時代じゃパワハラ・セクハラといわれて

おかしくないような事件を思い出しながら

話はどんどん盛り上がる。

 

すると顧問の眼もだんだん生気を取り戻し、

いつもの毒舌が戻ってきました。

 

その姿に僕ら3人もうれしくなって

ついついはしゃぎすぎ。

あっという間に1時間以上時間経っていました。

 

結局人は

人によって元気を失うこともあれるけれど

元気をもらうのも人なんだ。

すべては人間関係に帰着します。

 

ふと疲れた様子を察したCさんが

そろそろ〆の蕎麦にしますか、

と仕切りを入れ、

各自好きな蕎麦を注文しました。

 

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僕は温かい「鴨南蛮」。

ほか3人は「鴨せいろ」で〆を。

 

と思ったら、

顧問が卵焼きを2度目の注文。

蕎麦を食べた後に

さらに卵焼きをうまいうまいといって

一人で平らげました。

 

店を出て

「いやあ、楽しかった。

また来年早々やりましょう!」

 

疲れた様子にも笑顔が戻って

タクシーに乗った顧問を見送りながら

Cさんがとある話を。

 

おばあさんが早くに闘病生活になり、

それを看病していたお母さんが

精神的にまいってしまい、家をでて、

仕方なく小学生のときから

おばあさんの面倒見ている友達がいて、

おばあさんは90になった今も生きていて

彼女は40を超えた今も独身で

看病を続けているという。

 

「そんな彼女の人生、あまりに悲しくないですか!

もしも自分がアルツハイマーとか

認知症になって、

誰の区別もつかなくなったら

遠慮なく施設に入れて

自分を忘れて(離婚してでも)

自分の人生を歩んで欲しい、

と思っているんです。

だって妻も子供も、

僕にとって誰が誰だかわからなくなるんだから

そんな自分に時間を割いてほしくないです。

心からそう思ってもう家族には告げているんです」

 

僕も99%同感。

でも残りの1%が引っかかる。

そうなった僕を心にかけるのも

僕の問題ではなく

心にかけてしまう人それぞれが

主体となってしまう問題だからです。

僕の記憶が家族の一人一人に生きている以上、

それを断ち切ってまで

自分を忘れろ、という方が酷かもしれない。

 

入水自殺を図った評論家の西部邁と交流のあった

ある思想家が、

彼が自殺を図ったのは、

死が怖いのではなく

死の直前に必ずやって来る苦痛がいかほどなものか

わからないから怖いのであって、

それを潔く断ち切ることさえできれば

自分も、周囲も、

その苦痛から解放できると考えたからではないか・・・

 

そんなようなことを言っていたような気がします。

 

時折僕は、自分がそういう決断をできるかどうか

考えてしまいます。

 

長寿庵。

そんな名前の蕎麦屋で

長寿の意味を考えてしまった昨日。

 

もしも顧問にいよいよ来るべきときがきたなら

ここ10年を超える彼との記憶は、

やはり僕を放っておくくことはしないんだろうな・・・

  

あ、全然お店紹介になりませんでしたね💦

「長寿庵」は築地界隈の食通が通う

「鴨せいろ」の発祥の地と言われている老舗です。

創業は昭和10年と、歴史があります。

住所は銀座ですが、場所的にはほとんど築地です。

www.choujyuan.co.jp

 

決して高くなく、リーズナブルです。

昨日も予約で満杯。

昔ながらの築地江戸っ子と

周辺のサラリーマンたちが入り乱れ、

その賑わいを楽しむだけでも価値があります。

 

ここにきたら

間違いなく「鴨せいろ」を食べてみてください!!

 

マルーンジュニア