週末は雑木林に囲まれて

八ケ岳に魅せられて、週末は八ヶ岳南麓で暮らしています。東京と行ったり来たりの暮らしの中で感じたことや考えたことを綴ります。

ヒグラシの鳴き声に蘇る小学校時代の4人の思い出

先週の土曜日から

妻と山小屋に来ていたのですが、

仕事があるのと猫が心配ということで

妻が今日東京に戻りました。

 

一人になった山小屋。

誰にも邪魔されず

静かになった時間を味わいつつ

ちょっと寂しさも感じる夏の夕暮れ。

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こんなときに限って

小学生のときに出会った4人の友達を思い出します。

それも必ず・・・。

 

1人目はきよちゃん。

 

小学校1年生のときでしょうか。

僕の家は地元の営林署が管理している

2世帯が入る長屋で、

1学年に10人ぐらいしかいない

ど山奥に住んでいたのですが、

きよちゃんは同級生でした。

頭は良かったのですが

病的に痩せていてドモリが激しく、

うまく友達との輪に入れずにいたのですが、

僕の両親ときよちゃんの両親(牧師さん)が仲が良く、

しょっちゅう僕の長屋の家に遊びに来ていました。

きよちゃんは僕に妙に懐いていて

行くところ行くところついてきます。

「二人仲いいね。将来は結婚するのかな・・・」

なんて親同士笑っていたのですが

そんな話をされるのがとてもいやで、

一度だけ後をついてくるきよちゃんを

「もうついてくるな!」

と怒鳴ってしまったことがあります。

そのときのきょとんと大きく瞬きもしないまま

僕を見つめていた、

黒く大きな目を今でも思い出します。

きよちゃんはそれから1年ほどたって

新潟へ引っ越していきました。

 

2人目はほった君。

 

きよちゃんがいなくなって間もなく

ほった君が長屋の隣に引っ越してきました。

学校も学年もクラスも(1クラスしかないので)同じです。

ですので学校に行くときも

帰るときも一緒でした。

ほった君は多少の知的障害がありました。

ニヤニヤしながらウエエエエ・・・と

年老いたヤギのような声を頻繁に発していて

クラス仲間から気味悪がられていました。

そのことを親に話したら、

お隣さんだし同級生なんだから

仲良くしなさい。

一度家に招待したら?

と言われたので、

土曜日の夕方ほった君を家に誘いました。

ほった君は最初は無口でしたが

打ち解けてきたらいろいろ自分のことをしゃべり始め、

ウエエエエ!ウエエエエ!と楽しそうに

笑っていました。

その日は一緒にお風呂に入ることになりました。

ほった君は服を脱いでいきなり

五右衛門風呂の湯釜に入ろうとしたので、

最初はおちんちんやおしりを洗って

体に湯をかけてから入るんだよ、

と教えてあげました。

お湯をかぶったらちょっと臭い匂いがしたので

あまりお風呂に入っていなかったのかもしれません。

ほった君と体を洗いっこして

窓にへばりついたヤモリをからかいながら

随分と長いことお風呂に入ったいたことを覚えています。

それから半年ほどたって、

ほった君のお父さんが死にました。

隣から木魚の音が聞こえたので

あれ、何だろう?と思って庭から覗いたら、

白いハンカチをかぶされた遺体が横たわっていて

その隣でほった君がウエエエエ・・・と泣いていました。

お父さんが死んで間もなく、

いつも間にかほった君は引っ越していなくなっていました。

 

3人目は僕。つまり自分。

 

僕の一家はど山奥から街中に引っ越すことになり

5年生の夏休みが終わり、

2学期の始まる日に、

街の中の小学校に転校しました。

街の子供たちにバカにされないようにと

母にワイシャツを着せられ、

黒の短パンの吊りズボン、

それに革靴も履かされ、

クラスのみんなの前で転校の挨拶をしたのですが、

その母の時代遅れの愛情が仇となって

いきなり嫌われ者になりました。

休み時間になると隣のクラスから女の子たちがやってきて

遠くから僕を見ていて、

僕と目が合うと、

オエエエエ~!をゲロを吐く真似をして

キャーキャー騒いで逃げていきます。

廊下ですれ違うとわざと端っこに寄って

オエエエエ~!を連発します。

今でいうとイジメに当たるのかもしれませんが、

イジメられているという意識もないほど

鈍い性格だったようで

それが幸いして、半年ほどたつと

女の子たちのオエエエエ!はなくなりました。

その後の僕はというと

そこそこ勉強もスポーツも音楽も出来たので

学級委員長なんぞを務めることになりました。

 

4人目はけいちゃん。

 

街の学校に転校したおよそ1年後、

6年生の夏だったと思います。

クラスにけいちゃんという女の子がいました。

ちょっと知恵遅れで、

鼻水をたらし、いつも同じ服で、

ほとんどしゃべらず、

声をかけるとうつむいた顔から眼だけがこちらを見上げ、

その姿がおぞましく見え、

みんなから嫌われていました。

ある日の授業中、

けいちゃんの後ろに座っていた男の子が

「うわ!やべー!こいつけつから血を流してる!」

と叫びました。

彼女はどうやら初潮が来たようで、

ただ授業中だしどうしていいかわからず、

じっと椅子に座ったままでいたのでした。

それを見た男たちがやんややんやと騒ぎ立て、

教室中でお騒ぎ。

その騒ぎを聞きつけた教頭がやってきて、

やんややんやとやっている男の子6人ほどを

廊下に出しました。

その6人の中に、僕もいました。

全員廊下に立たされ、

思いっきりグーで殴られました。

口の中が切れたほど痛かった。

あれからずいぶん経って

社会人になって7年目の夏休み、

クルマで帰った実家の近くの

ガススタンドで給油をしていたら、

こちらをじっと見ている女の人がいます。

よく見るとけいちゃんでした。

その目は小学校のときと変わらずどんよりとして、

僕に憎しみを抱いているのか、

懐かしさを感じているのか、

そもそも思い出せないでいるだけなのか、

全くわからない目でしたが、

両腕にはしっかりと赤ちゃんが抱かれていました。

けいちゃん、結婚して子供が出来たんだ・・・

なんだか胸が熱くなり、

思わず会釈をしたのを覚えています。

 

4人のいずれの出来事も夏の思い出です。

ヒグラシの鳴き声は

そういう記憶を色鮮やかに思い起こさせるほど

心の雑木林の中に響き渡ります。