東京から八ヶ岳への旅は
山を追う旅です。
徐々に近づいてくる山、
徐々に遠ざかっていく山、
山と追いかけっこしながら行くのが楽しいので
僕は高速道路をできるだけ使いません。
今日も調布から相模湖までは高速でしたが
それ以外はずっと下の道路を通って
八ケ岳に入りました。
家を出る時の東京の空。
調布から高速に乗ると
遠くに冠雪した富士山が見えました。
あの富士山のさらに向こう側に行くと思うと
ワクワクしてきます。
峠道に入るからでしょうか。
富士山は相模湖あたりから見えなくなります。
しばらくくねくねした国道20号線を
運転に集中して走ります。
走り切ったところで
勝沼の市街地が広がってくるのですが
そうすると南アルプスが迫っています。
南アルプスは連峰と言われるだけあって
抜け穴のない壁のように行く手を塞ぐので
旅は行きどまってしまうのではないか、と
少し不安にさせます。
でも不思議なことに走っているうちに
抜け穴を走っているのです。
いつの間にか南アルプス連峰の壁は
左手に移っていて
まるで”どうぞ!”と
門を開けてくれるのです。
そうすると甲府の市街地に入り
山々は遠ざかっていくのですが
市街地を抜けると
今度は八ヶ岳がにょきりと目の前に姿を現します。
八ケ岳も連峰と呼ばれていますが
そうは思えません。
確かに山の上の方はいくつかの頂がありますが
全ては一つのすそ野の上に広がっているからです。
ですので行く手を塞ぐ壁ではなく
行く目印になってくれているのです。
だからここで八ヶ岳が見えたとき
ああ、ゴールは確実にあるんだ、
と嬉しくなります。
韮崎に入ると八ヶ岳が俄然大きく
そびえたってきます。
韮崎から国道20号線を離れて
国道141号線に入るのですが
ここから標高を上げていくドライブは
クルマにとっては心臓破りの坂なのでしょうけれど
ドライバーにとっては
ハートビートなコースです。
須玉ICを通り過ぎ
さらに標高を上げていくと
眼前に八ヶ岳が大きさを増します。
意外にも近づけば近づくほど
切り立った鋭さは解けていき
優しい山肌が僕を迎えてくれます。
ここまでくると
八ケ岳の懐に入ることが出来たという、
なんともいえない安心感に包まれます。
そう言えばまだ東京を脱出できていないときに
遠くに見えた富士山はどこに?!
そうハッとして振り返るのですが
富士山は裏切りことはありません。
ちゃんと動かずにいてくれています。
遠くにいながら
近くに見守っていてくれていたことを知ります。
八ケ岳の山小屋は雑木林に囲まれているので
山は見えません。
ですが家を出て10メートルも歩くと
南西に南アルプス、
南東に富士山、
北に八ヶ岳が見えます。
追いかけっこしたあとも
3つの山は消えることなく
楽しかったね、また遊ぼう!
と言ってくれているようで、
山小屋に到着した夜は
その楽しい思い出を肴に
ワインが進むのです。