週末は雑木林に囲まれて

八ケ岳に魅せられて、週末は八ヶ岳南麓で暮らしています。東京と行ったり来たりの暮らしの中で感じたことや考えたことを綴ります。

人生を焙煎するコーヒーマスターとの出会い@「ギャラリーシティーロースト」(長野県富士見町)

僕は”こだわりのマスターがいるコーヒー店”がどうもダメです。

 

大学に入ってすぐに

学校の近くの喫茶店でアルバイトを始めたのですが、

その喫茶店が出来たばっかりの

天井の高いヨーロピアン調の

椅子やテーブルやカトラリーにも

いやというほどヨーロッパのにおいがプンプンし

一杯800円ぐらいする高級を謳うお店で、

店長はというと40歳ぐらいの背の高い

ゆるくウェーブのかかった長い髪を丁寧に頭になでつけて

芸能人よろしく時折憂鬱そうにかきあげたりしちゃう

天然パーマの僕にはまねできないことを平気でするような嫌な奴で、

履歴書をちらり見しただけであとは指示やレクチャーもないまま

「接客やって」とひとこと僕に言うと

そのままカウンターに入って本を読みだしました。

 

喫茶店でのアルバイトは初めてだった僕は

お客様が来たらいらっしゃいませといって案内し

水を出し注文を取る・・・

会計時にはお金を受け取ってお釣りを渡す・・・

その繰り返しだろうと思って自分なりに動き始めたら

どうも僕の動きが気に入らないらしい。

正直僕も初めての経験で気の利かないことばかりしていたんだと思うが

その都度冷たい態度で

「そこに立たない!」

「音を立てない!」

「もっと早く!」

と小声でにらむ。

そうしてついにマスターが切れた瞬間がやってきた。

お客さんの水が空になったので水差しをもって

「お水はいかがですか?」

と聞いたら腕をつかまれて裏口に呼ばれ

「馬鹿野郎!水はなくなったら黙ってだせ!!」

と怒鳴られた。

今思うと確かに僕は気が利かなかったと思うけど

そこまで怒ることはないだろう。

そのあとは早くここから逃げ出したい・・・

とずっと思って時間を過ごしました。

 

そうして営業時間が終わり帰るとき。

案の定マスターの説教がこんこんと始まりました。

俺は脱サラしてコーヒーが好きでこの店を始めた。

コーヒーに命を懸けている。

お客様のことをとことん知っている。

お前の場合は常識を知らないばかりか人の気持ちも知らない。

接客する資格がない。

そもそもお前は社会人としてまるでダメだ。

お前みたいなやつは社会に出て失敗する。

ビジネスはそんな生易しいものじゃないということを胸に刻んで

せいぜい頑張りな。

なんかそんなことをクソミソに言われたような気がするが

最後に「これ今日のアルバイト代」といって

グレープフルーツを一個くれた。

 

そのお店はというと二度と近づかなかったのは言うまでもないけど

僕が卒業する年にはなくなっていたから

4年ももたなかったのだと思う。

 

今もしマスターにあったら

社会人として、人としてのダメさを

100倍返しでこてんぱにぶちのめしてやるのだが、

まあそんなことがあって

”こだわりのマスター”なるものがどうも苦手なのです。

 

あれ?

話が脱線しました💦

なんでこんな話を長々してしまったかというと

そうじゃない”こだわりのマスター”に週末八ヶ岳で出会ったからです。

コーヒーは提供せず独自の味覚で焙煎した豆を売っているので

”コーヒーのマイスター”といった感じかもしれません。

 

ご紹介します。

ギャラリーシティーロースト」さんです。


八ヶ岳友達のYさんごひいきのこの店に

ようやく一歩足を踏み入れたのですが、

背の高いマスターは前述のマスターとは大違いで

ロン毛をかきあげるようなことは致しません。

というかロン毛なんかありません。

薄い頭隠すので帽子かぶっています。

御年なんと70歳!!

全くそうは見せません。

日焼けした顔からこぼれる笑みはいつもはにかんでいて

笑うと目じりがくしゅくしゅっとなるのが可愛い笑。

お客さんがいなかったせいか

いやあ思わず40分も話し込んでしまいました。

 

32歳になって初めてカメラを買って

それからルポルタージュカメラマンとして世界を飛び回ったこと。

東京に戻って結婚式のカメラマンになったとたん

スタッフを何人も雇うぐらい大忙しの日々になったこと。

でも6年でこりゃ癌になると判断し

世俗を断って52歳で八ヶ岳に来たこと。

八ヶ岳では自分で50万でお店を建てたこと。

15万で焙煎道具をそろえで商売を始めたこと。

とはいえコーヒーは一日1杯ぐらいしか飲まないこと。

友達に「おいしい!」とおだてられてお店を始めたこと・・・。

そしてそして・・・。

なんと3年前に結婚しヨチヨチ歩きの子供がいること!!

その子供を背負って山登りをしていること!!!

御年70歳ですよ。

いやあもう脱帽です💦

コーヒーのマスターかと思いきや

人生のマスターです。

人生を焙煎しています。

話に夢中でコーヒーそっちのけで盛り上がってしまいましたが

最後に買ったのは「オリジナルシティーブレンド」。

まずはマスターのこだわりのブレンドを味見したいではありませんか!

それを200g550円で提供してくれるところがまた素晴らしい!

 

さて。

その豆を実はまだ飲んでいませんが

どんな人生の滋味があふれ出すのか

それを味わいたいと思っています。

間違いなく通い詰めることになるであろうこのお店との出会いに

”こだわりのマスター”への苦手意識がすうっと消えていくのが

わかりました。