4両の客車を連結させて
EF64はピー!と雄たけびを上げると
するすると茅野駅を滑り出しました。
15:37。
いよいよ客車の旅の始まりです。
カタン、カタン、カタン・・・
つなぎ目を確かめるように車輪が回る音。
カンカンカンと踏切音が流されていく。
止まったままの自分を乗せて
見知らぬ場所に運んでくれる静かな客車に
身も心も預け、
引かれるがままの無防備な自分・・・
なんて最近感じたことのない郷愁に浸っていたら
グボー、グボーと
地鳴りのような音が響いてきた。
隣の席でおじさんAが居眠りを始めたのです。
何の遠慮もなくここまで爆睡ののろしを上げるとは・・・
などと感心していたら、
車内放送が流れはじめました。
「ようこそ、記念列車に。
この列車は辰野支線を経由し松本に向かいます。
辰野駅では皆さんをお出迎えします。
でもってお弁当も配ります。
夕暮れの車窓をお楽しみいただき
松本につくのは18:50の予定です・・・」
とまあ、そんなことを言っていたのですが、
おじさんAの向かいに座っていたおじさんBが
「ちっ、もっとちゃんと何番線に入って
右に何々がみえるとか
そういうこともちゃんと言えよ!」
と小言を言い始めました。
どうやらすでにビール1本空けて日本酒に突入しています。
日ごろのうっぷんがたまってるのかな。。
AさんもBさんもたしなめられるはずもなく
聞こえないふりをしていたら
今度は加齢臭が漂ってきた。
ものすごく近くに感じたので目を上げたら
僕の前に座っているおじさんCからのパフュームでした。
うーん、念のため虫よけスプレーを持ってきたが
消臭スプレーはさすがに持ってこんかったわい。。。
ということで、無論Cさんをたしなめることもできず、
このまま僕はおじさんABCに囲まれて2時間も
耐えなくてはいけないと思うと、
持ってきた虫よけスプレーをぶちかまして
人家に降りてきた熊退治をするぞ、と決心したところで
辰野駅に列車は滑り込んで止まりました。
ホッとしました💦
辰野駅では1時間以上止まり、
外に出て休憩できる時間があります。
ホームでは辰野の人たちが和太鼓と横断幕で
僕らを出迎えてくれました。
駅を出るとテントがいくつかあって
ミニ物産展が繰り広げられていました。
この辰野駅での1時間は
起死回生のリフレッシュタイムでした。
和太鼓を聞いたり物産展を覗いたり、
ちょうど夕暮れが始まる時間帯だったので
露出やモードにこだわってあちこち写真を撮ったり。
夕日を浴びるEF64。
新旧のすれ違い。
列車が出発するまでホームを交差する出会いと分かれ。
昭和にバック・トゥー・ザ・フュチャー。
気が付くと夜のとばりの中に、
辰野駅出発のアナウンスが響きました。
そのアナウンスにせかされるように座席に戻ったら
椅子の上にこの旅のサービスのお弁当が置いてありました。
素敵なパッケージに食欲がそそられる。
空けてみると秋の味覚満載!
列車が動き出したら食べようと思ったけど
目の前にある秋の味覚に耐え切れず
なりふり構わず箸を振るう。
松茸ご飯がとてつもなくおいしくて
ビールの代わりに
のど越しまで味わって食べました。
ふと見渡すとおじさんABCも夢中でお弁当タイム。
小さなコンパートメントに背を丸めて
一心不乱に無言で弁当を食べるおじさんの姿は
なんとも黄昏ていてちょっとかわいい?!
いびきも小言も加齢臭も
この時ばかりは不思議にありませんでした。
まもなくして夜がどっぷり暮れました。
真っ暗の中を終点松本に向けて
ラストスパートを駆け抜けます。
ガタンガタンひっきりなしに揺れる車両に
旅の最後を感じたのか
乗客全員がまた活気づいてきました。
それまで聞こえてこなかった笑い声なんかも聞こえたりして。
この旅の乗客が
若い女性ばっかりだったらどれほど楽しかったか・・・。
最初は何度も悔やんだのですが、
キャーキャー大声で騒がれるよりも
なんだかおじさんに囲まれて
それはそれで幸せだったのかな。
列車は少し遅れて松本駅に着きました。
7時過ぎ。
3人のおじさんは
それぞれ散っていきました。
僕はというと
茅野駅に止めた車に戻るべく
また中央本線を折り返します。
折り返しの電車は
電気機関車が引く客車ではなく
いわゆる電車です。
来た道3時間半を
1時間で戻りました。
不思議な気持ちになりました。
茅野から松本に行って茅野に戻る
ただそれだけの半日の旅だったのですが
半世紀前にタイムスリップしたような気分。
これで¥18,000-は安いです!
高校生とおじさんDを堪能した旅でした。
おしまい~笑