埼玉の奥の方のサーキットコースで
クルマのイベントがあり
仕事で立ち会ったあとの帰りの電車の中。
始発駅の電車は空いていて
僕は一番端っこに座った。
次の駅で5~6人の女子高生が乗ってきた。
少し離れた場所で固まって
楽しそうに話している。
そのうちの一人の女の子に目が止まった。
背が高くスラリと伸びた足。
ときおり揺れるサラサラのロングヘアー。
横顔が見えた。
端正な鼻立ちが目立った。
きれいな子だなあ・・・
ぼんやり見とれていたら、
突然女の子たちが
僕の座っている席の前の方に移動してきて、
気になっていた背の高い子が
僕の横に座った。
そして、
「あ、これ知ってる。
クルマのイベントですよね」と
抱えていた紙袋を見て声をかけてきた。
ビックリして
「そ、そ、そうだよ・・・」
と答えたら、
「これ、どこでやってるんでしたっけ?」
と聞かれ、
あまりの唐突な質問に
サーキット会場の名前もど忘れし、
「えーと、えーと・・・
なんてたっけなあ・・・」
と思い出そうとしていたら
「はい、これ」
と言って、その子が地図をくれた。
これで探して欲しい、とのことだ。
分厚い日本道路地図で
相当使いこまれたせいか
ボロボロだ。
埼玉県、埼玉県・・・
探すのだが、
ページが外れていたり
上下がさかさまになっていたりして
なかなか探せないでいると、
前の席にいた僕と同じ年ぐらいの
イケメンおじさんが
「君たちどこの高校?」
といって
彼女たちに話しかけてきた。
イケおじは話が上手で
あっというまに女子高生を虜にし
キャッキャ言ってしゃべっている。
僕はというと
相変わらず埼玉県のページを開くのに
四苦八苦している。
そのうちイケおじが
「よかったらこれ僕の連絡先」
と言って、
彼女たちに名刺を出した。
先を越された・・・!
そう思っても
埼玉県のページが見つかるまでは
彼女たちとの次の展開が見当たらない。
どんどん離されていく自分。
寂しいやら、悲しいやら、悔しいやら。
そうしたら背の高い女の子が僕に、
「おじさんの名刺、ください」と、
つぶらな瞳で僕を見上げ、
手の平を差し伸べてきた。
「ああ、そうだね!」
そう言って地図帳を置いて
カバンの中の名刺入れを探したら、
今度は名刺入れが見つからない。
あれ、どこ行った?
この肝心なときに、忘れたか・・・?!
本や手帳やカメラ、筆記用具に混じって
どこかに隠れてしまっているに違いない。
一生懸命探す僕。
僕を見つめ、名刺を待っている女の子。
と、突然車内アナウンスが響いた。
「次は終点、終点です。
どなたさまもお忘れ物のないように」
名刺は相変わらず見当たらない。
このままでは何もなかったまま
彼女と別れてしまうことになる。
やばい・・・!
どうしよう・・・!
と焦りが頂点に達したとき、
耳元でニャーン、と猫が鳴いた。
目が覚めた。
夢だった・・・。
猫は早く朝ご飯にしろ、と、
立て続けに鳴き始めた。
するとその声を聞いた妻が、
「はいはいはーい。とらちゃんこたちゃん
待っててねー」と起きてきて、
ガチャガチャドタバタと動き始め
現実が騒々しく目を覚ました。
僕は夢の続きを見たいと
もう一度布団をかぶって目を閉じた。
でもどんなにこれまでのストーリーを振り返っても、
女の子は現れなかった。
目を開けて血圧を計ったら
いつもより高めだった。
そりゃそうだろう、
あんなにかわいい女子高生に
見つめられたのだから。
また今夜会えないかなあ・・・
って、会えるわけねーだろ!!
(とらこたより)
おしまい。